《来客・共創エリア設計|日建設計》お客様を協業パートナーに。共に旅を楽しむ感覚を生む来客・共創エリア|ほぼ100のこばなし

都市開発第一事業本部建築部推進一課 池田真人さん
株式会社日建設計 伊藤達則さん

2025.06.04

《来客・共創エリア設計|日建設計》
お客様を協業パートナーに。
共に旅を楽しむ感覚を生む
来客・共創エリア

INTRODUCTION

新本社の14・15階は、外部の方が訪れる来客エリア。15階のエントランスを抜けると会議室や応接室、ラウンジなどがあり、14階にはアトリエなどを備えた共創エリアが広がっています。「GREAT JOURNEY」というコンセプトで設計されたこれらの空間には、社員もお客様もさまざまな体験ができるように、多くの工夫が詰まっています。 今回は、来客・共創エリアの設計を担当した株式会社日建設計の伊藤達則さんと、野村不動産 都市開発第一事業本部建築部推進一課 課長の池田真人さんが対談。コンセプトに込められた思いや、デザイン・素材へのこだわりなど、単なる仕事場以上の体験を提供する来客エリアの設計について語っていただきました。

同じ体験を通してつながり、協働するパートナーに

――来客エリアのコンセプトを「GREAT JOURNEY」とした理由を教えてください。

伊藤達則さん(以下、伊藤): 野村不動産さんから「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」というビジョンを伺った際に、次のステージに向けて一歩踏み出していく時の感覚は、旅に出るときのモチベーションに近いのではないかと思ったのです。それは、アフリカに誕生した人類が世界に拡散していった「グレートジャーニー」に通じるのではないかと思い、新たな道を能動的に切り拓いていくモチベーションを支えられる空間にしたいと考えて「GREAT JOURNEY」としました。

旅で最も大切なことは、自分自身で選ぶこと。その感覚をオフィス空間に落とし込むために、各場所でどんなことを感じてほしいのか、どんな働き方をしてほしいのか、1つ1つ考えながら設計していきました。

伊藤達則|Tatsunori Ito
日建設計 スペースデザイングループ アソシエイトデザイナー 2010年日建スペースデザインに入社、オフィス空間をはじめホテルや料飲空間のデザインも手掛ける。デザインの対象も内装に限らず、プロダクトやサイン・映像コンテンツなどにも積極的に取り組む。
2024年日建設計と合併し、現在に至る。

池田真人さん(以下、池田): このコンセプトには非常に共感しました。「CROSS-BORDER For Tomorrow」という本社移転の大きなコンセプトがある中で、お客様とももっと垣根を越えて交流し、深くつながりたいと思っていたからです。普段からさまざまな企業様と付き合っていく中で、自然発生的に良いアイデアが生まれ、新しいビジネスを作っていくような流れにしたい。そして、お客様には単なる契約関係ではなく、協働するパートナーになってほしい。新本社ではそこまで関係性を発展させられたら、と考えていました。

では、どうすればいいか。仲間として一緒に旅に出たら、同じ目線で同じものを見て、同じものに感動するという体験ができますよね。「GREAT JOURNEY」というコンセプトは当社の目指すところにぴったりだと思いました。本社の移転自体、新たな旅立ちでもありますしね。

池田真人|Masato Ikeda
野村不動産 都市開発第一事業本部 建築部 推進一課 課長 2011年入社、住宅事業本部住宅営業一部に一年半在籍した後、都市開発事業本部建築部へ異動。都市開発第一事業本部建築部とオフィス戦略室を兼務の後、現在は都市開発第一事業本部建築部に在籍。
PMOやH¹O、H¹T等オフィス用途の推進業務に当たっている。

――来客エリアの設計にはどのような特徴があるのでしょうか。

伊藤: 海に近い立地の魅力を顕在化させる設えにしました。各スペースはシームレスにつながっているのですが、空間としては少しずつ変化していて、体験も変わっていきます。「シームレスなつながり」と「体験の変化」という、相反することを同時に成立させることが今回の設計で最も大きなポイントです。

通常、オフィスのプロトタイプは効率重視です。例えば会議室。全室が同じ機能、同じスペックのことが多いですが、今回のプロジェクトでは、それぞれの場所に特徴を持たせることで「選ぶ」という行為を生みたいと考えました。「この部屋のこんなところが気に入ったので」「今日はこういうお客様がいらっしゃるので」というように、その都度ご自身で最適解を探して、能動的にさまざまな体験をしていただけたらと思っています。

変化する空間、訪れるたびに異なる体験を提供

――一般会議エリアの特徴を詳しく教えてください。

池田: 一般会議エリアは、10室から20室程度の会議室を一つのVillaに見立て、特徴の異なる5つのVillaが集まった形式で構成されています。それぞれのVillaは、デザインコンセプトも異なり、個性的な5つの空間となっています。当社からは、「お客様に何度も来たいと思ってもらえるようにしたい」とリクエストしました。来訪するたびに違う景色が見られたり、会議室に至るルートが複数あったりして、毎回違う道を楽しめるような設計ですね。つまり、会議室までの道中も「旅」なんですよ。少し複雑なルートになっているのですが、そこも含めて旅の良さかなと思っています。

伊藤: 会議室までの道には植栽やサインを設置するので、それらが自然な会話のきっかけにもなると思います。

池田: 道中に話の種が用意されている、「偶然のコミュニケーション」が生まれる仕掛けですよね。

会議室までの道のりを楽しむ、一般会議室エリア。

――エントランスエリアはどんな空間なのでしょうか?

伊藤:エントランスは「顔」になる場所ですし、お客様にお待ちいただく場所でもあるので、ホスピタリティのあるきちんとした設えも大事ですが、あまりいかめしくするのも違うかなと、池田さんと会話をする中で思いました。 エントランスエリアのすぐ裏には一般会議エリアがあり、その人の動きがエントランス側からも少しわかるぐらいの透過性を持たせようと、ルーバーを配置しています。きちんとした空間ではあるものの、人の気配や外光による広がりを感じられることを狙っています。照明の色も時間と共に変わるようにしてあり、外光とリンクするようにしました。周囲の変化を感じ取れる方が、飽きがこないですよね。

池田: 訪れる時間によって表情の変化を感じられるので、来ていただくたびに違う印象を抱いてもらえるとうれしいです。当社からは、「エントランスからでも海を感じられるようにしたい」とのリクエストがあったのですが、エントランスエリアは海から最も遠いところにありまして。

伊藤: それでも海を感じられるように工夫したことの1つが、間接照明をエントランスから海側まで通したことです。これがあると、目線が自然と海の方に向き、水面が見えなくても、外の明るさや海の存在が感じられるようになります。

池田: エントランス側から海に向かって、開いていくように設置したルーバーも良かったですね。空間を区切りながらも広がりを感じられて、光を取り入れられる。非常にうまくいったのではないかと思います。

伊藤: 池田さんや野村不動産の皆さんは一緒になって考えてくださるので、気持ちの面でも楽でしたし、みんなで良いものを作ろうというマインドで進められたので、楽しめましたね。まさに、「協働するパートナー」という関係性なのだと思います。

エントランス、受付エリア。間接照明を配した曲線のアプローチが、窓の外へと視線を誘う。

外からお客様を迎える15階、内なるパッションを感じる14階

――役員用の応接エリアの設計ポイントを教えてください。

伊藤: 役員応接エリアのエントランスは、会社の第一印象として重要な場所です。海をきちんと見せるために、ノイズをなくして風景をしっかり切り取ることを意識しました。カーペットも、水面が揺らいでいる様子をモチーフにしています。

応接室には一般会議エリア同様、会議室ごとにテーマを設け、デザインも何パターンか用意しました。訪問するたびに、違う印象を受けていただけると思います。

一方、役員会議室は、距離感を重視して設計しました。Web会議で多拠点と接続するなどシステマチックな機能も重要ですが、参加者が大人数になると顔が見えにくくなるので、テーブルを楕円形にして細かく寸法を調整していきました。明るさや柔らかさを重視した空間になっています。

海の景色へとつながる役員応接エリアのエントランス。

――役員向けのラウンジもあるんですね。

伊藤: 役員同士がたまたま顔を合わせて会話をするような、コミュニケーションのきっかけになる場所にと思いながら設計しました。

池田: 芝浦への移転によって個室がなくなってしまう役員が多いので、このラウンジをぜひ活用してほしいと思っています。運用についてのルール決めはこれからですが、役員と社員の交流の場にもできたらと考えています。

――14階は共創エリアとなっています。どのように使われる予定ですか?

池田: 他社の方々とも協働できるような空間にしたいですね。将来的には、社外の方々とプロジェクト単位で会議室を一定期間押さえる、というような使い方もできたらと思っています。

伊藤: 中央にはライブラリーがあり、14階のどこにいても本棚が見えるようになっています。実際には書籍やサンプルを置く場となりそうですが、ここは野村不動産さんの象徴といいますか、ものづくりのコアという位置づけです。そして、この周辺で作業をする人や会議をする人、その様子をちらっと見ながら移動する人がいて……本棚を中心に活動が発生するイメージですね。

本棚は波形になっていて、中をくぐって移動していくと見える景色が変わっていきます。空間はつながっているのですが、本棚を境に「内側」と「外側」で少し設えを変えて、個性を出しています。

社内外向けに野村不動産グループの取り組みをアピール、マテリアル・サンプルを共有するアトリエ。

池田: 14階と15階では大きく差をつけようと思っていました。15階はエントランスや応接室があって、外向きの場所。一方、14階は内なる部分というか、野村不動産のパッションを感じてもらえる空間にしたかったんです。

伊藤: この2つのフロアをつなぐのが内部階段で、内部階段には両フロアにまたがるアートを設置します。光の粒のような金色のアートなのですが、内側から出てくるエネルギーをアートに昇華させて見せようという発想です。14階で渦巻いた力が溜まって、間欠泉のように噴き上げ、15階に飛び出していく。粒の形もそれぞれ違っていて、個性や1人1人のエネルギーをイメージしています。

14階と15階をつなぐ階段の手すりには、金糸を漉(す)いた和紙を挟んだガラスを設置。

仕事以外の要素で心を満たせるオフィスにしたい

――来客エリアで使用した素材について、何かこだわりはありますか?

池田: 野村不動産では「森を、つなぐ」東京プロジェクトを行っていて、東京・奥多摩町の約130haの森を取得しています。循環する森作りを目指したサステナブルな取り組みで、この森で育てた木を新本社になるべく使いたく、家具やアート、またフローリングとして一部の床材にも使っています。

伊藤: 新本社では海が最も強いファクターだと思いますが、この環境に寄り添える材料選びを心がけました。あまりオフィス然としたものではなく、かといってリラックスしすぎてもいない、絶妙な温度感を意識して選んでいきました。例えば、役員エリアには、左官やレンガスライスのタイルのように陰影がよく出る材料にこだわりました。朝や夕方など光が強く入ってくる時間帯には特に陰影が際立つので、光による変化を感じやすくなります。「ここならではの空気感」が醸成できるのではないでしょうか。

池田: この建物自体が「TOKYO WORKation(トウキョウ ワーケーション)」というコンセプトの下で作られています。自然が感じられる環境と親和性の高いデザインにしていただきました。

――来客エリアの空間設計で、特に大切にしたことは何でしょうか。

伊藤: ちょっとした「拠り所」を散りばめることでしょうか。例えば、会議室の廊下の曲がり角などに家具を配置し、ちょっとした余白を活用してコミュニケーションやアクティビティが生まれるような仕掛けです。このあたりは御社とたくさん議論をしましたね。

池田: 会議と会議の合間にちょっとした打ち合わせができる場所を作ってほしい、良い景色を見ながら会議室に行けるルートを作ってほしいなど、かなり具体的なシーンを想定して、設計に落とし込むようにお願いしました。その通りにできあがっていると思います。嬉しいですね。

――設計を進めていくうえで、これだけは譲れないと思うことは何でしょうか。

池田: 単に働く場所にしたくなかった、ということです。仕事ができればいい、商談ができればいいというのではなく、このオフィスに来たら楽しい、何か良いことがある、おいしいものが食べられた、きれいな景色が見られたなど、仕事ではない要素で心を満たしてほしいと思っていました。機能的な与件以外にどれだけ付加価値をつけられるかが、最もこだわった部分です。

伊藤: オフィスは働く場所ではありますが、その読み取り方は人それぞれだと思います。機能、デザイン、色、柄、素材、照明などすべての要素を使って、仕事だけでなく「こんなことをしてもいいんだよ」と伝わるような世界観をしっかり作ること。それが、今回我々が必ず実現しなければならないことでした。

さまざまな場面を想像しながら設計するのはとても楽しかったです。今回のような配置で会議室や廊下を考えたことはあまりなく、とても新しい試みでしたし、新鮮な気持ちで取り組めたと思っています。

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