《執務エリア設計|小堀哲夫建築設計事務所》シナジー効果が自然と高まるオフィス設計。その空間に込めた意味|ほぼ100のこばなし

都市開発第一事業本部建築部推進一課 池田真人さん
小堀哲夫建築設計事務所 小堀哲夫さん

2025.05.21

《執務エリア設計|小堀哲夫建築設計事務所》
シナジー効果が自然と高まる
オフィス設計。
その空間に込めた意味

INTRODUCTION

「BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S(芝浦プロジェクト)」の概要が少しずつわかるにつれ、移転への心構えも醸成されてきたのではないでしょうか。実際、執務エリアはどのようなレイアウトなのか? 業務がスムーズに進むのか? 他の社員とのコミュニケーションはどうすれば?など、聞きたいことや知りたいことがまだたくさんあるはずです。

今回の記事では、執務エリアの設計を担当した建築家の小堀哲夫さんと、野村不動産 都市開発第一事業本部建築部推進一課 課長の池田真人さんが対談。さまざまな社員の声を盛り込みつつ、高い生産性とこれまで以上にチャレンジングな組織を作るために、どのようなオフィス空間を設計したのでしょうか。 「この取り組みそのものが大きなシナジー効果を生んだ」と語るお二人の思いをお届けします。

新本社で大小さまざまな「渦」を巻き起こしたい

――執務エリアのコンセプト「UZU」は、どのようにして決めていったのでしょうか。

池田真人さん(以下、池田): 設計者をプロポーザルで決める際、まず要項書を作成しました。新本社を作る意義は何か、人が集まる意味を真剣に考えなくてはと社内で議論したのです。会社の規模が大きくなるにつれ、どうしても縦割りの意識が強くなってしまい、なおかつ固定席で作業をしているため部署をまたいで横につながるコミュニケーションが起きにくい状況でした。

――そこに課題があったわけですね。

池田: そうですね。主に、以下の5つの課題を感じていました。

・ビル自体が古く、社員の増加に見合っていない執務環境。
・テレワークの進展により顕在化した課題の解決(育成面の課題、ハイブリッド会議への対応等)。
・社員どうしがつながったり、集まったりする場所が少ない。
・グループシナジーが十分に発揮できていない。
・場所が狭いため、クリエイティブなことに時間を割けない(模型を作る場所や図面をチェックする場所が足りない)。

一人ひとりの生産性を上げることは大事ですが、それよりも人が集まることで会話が生まれコミュニケーションに発展して、グループ全体のシナジー効果が増していくということが新本社で起こるといいなと考え、要項書に盛り込みました。

小堀哲夫さん(以下、小堀): その要項書を読んだ時にすごいなと思ったのは、自分たちの課題が直球で書かれていたから。特に「シナジー効果が発揮されていない」という言葉は衝撃でした。会社にとっては恥ずかしいことでそんなことを言ってしまうのはかなり勇気がいること。でもそこに、野村不動産さんがこのプロジェクトに賭ける本気度を感じましたね。

テレワークを快適にできるかどうかは物理的なことですが、シナジー効果は会社の文化みたいなもの。どうやって実現させるかと考えた時に、「渦(UZU)」という概念が出てきました。いろいろな人が混ざり合い、いろいろなコミュニケーションが生まれて、それは大きな渦や小さな渦がぐるぐると巻いているようなイメージです。

そして新本社から素晴らしい海の景色を見たときにも感動しました。海は常に変化していて、一瞬であっても同じ風景はない。変化し続ける海を見られる場所に移るのは相当チャレンジングなことで、美しい海辺の風景を想起させる意味でも「渦」だと感じました。

コンペの時にレオナルド・ダ・ヴィンチの話をしました。彼はイノベーティブにいろいろなものを作り出したし、水や渦にもとても興味を持っていたよう。渦のスケッチがたくさん残っていて、「ものごとは常に動き続けていることで新たな力を得る」との言葉を残しています。それをヒントに、1つにはシナジー効果としての「渦」。2つにはダヴィンチのようなクリエイティブでイノベーティブな人材を生み出せるような「渦」という考えを起点に、「UZU」というコンセプトを立てました。

小堀哲夫|Tetsuo Kobori
建築家、法政大学教授 1971年、岐阜県生まれ。
2008年、株式会社小堀哲夫建築設計事務所設立。日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞、IDA賞、AMP賞など国内外において受賞多数。代表作品に「ROKI Global Innovation Center –ROGIC–」「NICCA INNOVATION CENTER」「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」「光風湯圃べにや」など。
その場所の歴史や自然環境と人間のつながりを生む、新しい建築や場の創出に取り組む。

オリジナルのUZU家具で、シナジー効果をより高める

――コンセプト決定後、オフィスの空間作りをどのように進めていったのでしょうか。

小堀: オフィスをどれだけ作り込むかが次の課題でした。私の提案は、固定したものはできるだけ最小限にして、中の空間そのものが常に動き続けるような、渦における水のように変化し続ける仕組みが必要だというもの。そのうえで、家具のようでもあり建築のようでもある、中間的な半建築を提案しました。これが、変化する壁でもあり、オフィス家具でもあり、収納でもあるようなUZU家具です。

池田: 我々がまさに実現したいなと思っていたポイントです。UZU家具がいいのは、レイアウト変更があったときにある程度、自由に組み換えができること。弊社の場合、組織改変が多く毎年4月になると人員構成もガラッと変わります。UZU家具なら柔軟に対応できるし、人員の増減があっても動かすことができるので、長く使っていけるのではないかと期待しています。

池田真人|Masato Ikeda
野村不動産 都市開発第一事業本部 建築部 推進一課 課長 2011年入社、住宅事業本部住宅営業一部に一年半在籍した後、都市開発事業本部建築部へ異動。都市開発第一事業本部建築部とオフィス戦略室を兼務の後、現在は都市開発第一事業本部建築部に在籍。PMOやH¹O、H¹T等オフィス用途の推進業務に当たっている。

小堀: このUZU家具の製作を通じて、野村不動産の社員の皆さんとの渦が生まれましたね。我々が勝手にいいと思うものを押し付けたのではなく、「デスクの大きさはこのくらい」「高さが必要」など、みんなで喧々諤々の議論をして意見が渦巻きました。全体線のレイアウト、高さ、色などすべてについて社員の皆さんと検討できたのはすごくよかったです。

池田: 社員からもかなり細かい要望が出てきて、アイテムごと、パーツごとに「こうしたい」という意見やアイデアをまとめていきました。模型では作れても現物として成り立たないこともあるので、ではどうやったら成立するかを小堀さんと一緒に考えて、最終的にできあがったのはうれしかったですね。

小堀: 安全基準や組み立てが可能なのかなど、あらゆることを含めてイチから作りました。これはかなりイノベーティブな半建築で、打ち合わせの段階からどうやればいいか構造計算したし、地震波を入力して倒れないかも検証しました。おかげで、UZU家具はフレキシビリティがあって汎用性があるし、他にも展開が可能。ここまでできたのはもしかしたら日本初かもしれません。

建築ってオブジェクトがあるからこそ、シナジー効果が発揮されます。今はオンラインで打ち合わせが可能になったけど、その場に集まってモノを介して議論する。みんなで模型などを触りながら作り上げていくのが、クリエイティブな世界では必要だなと思っていました。まさにこれはシナジー効果ですよね。

トライアルオフィスに設置されていたUZU家具のモックアップ。

――大変だったこともあったのでは?

小堀: いちばん難しかったのは接続のところ。「つなげる」と「解体」をどう美しく機能的にデザインするかは、かなり難しかったです。とはいえ、幅をどうするか、コンセントをどこにつけるか、イチから検討できたのは幸せなチャレンジでした。UZU家具の製作はみんなが混ざるきっかけになったし、海側と都市側で執務エリアの雰囲気をどう変えるかという考え方にもつながりました。

池田: UZU家具はグループシナジ―を高める使い方につながるといいなと思います。たとえば、進行中のプロジェクトの模型やカラースキームボードを置くことで、プロジェクトの見える化が図れます。自分のセクター以外のプロジェクトが見える化していることで、新たな気づきが生まれるかもしれません。模型やカラースキームボードに限らず、各部の特徴が出るものを置いていただけるととてもうれしいです。

偶然のコミュニケーションを生むカフェスペース

――カフェスペースなどの共用部については、どのような考えで設計されたのでしょうか。

小堀: カフェという考え方はすごく重要だなと思っていました。仕事以外の場面で偶然の出会いを生むには、何かベースのようなものが必要。これだけ部署が多いとそれぞれのチームだけで完結しがちですが、カフェがあれば部署に関係なく集まるし、いちばんインフォーマルだけど重要なコミュニケーションにつながったりします。そしてカフェは、できるだけ入り口のところにあったほうがいい。出社してカフェを経由してデスクに行く、この経路が大事です。カフェはできるだけ入り口の近くに置きつつ、分散もさせるように作りました。

あと、今回の移転プロジェクトで新しいやり方だなと思ったのは、トライアルオフィスを作ったこと。そこで起きている事象など、たくさんのフィードバックをもらいました。人はいきなり意識を変えられないし、建築も一度作ったら簡単には変更できないので、どこで座って仕事をするかというワークポイントの考え方や、テーブルは三角形だと目線が合わないから話しやすいとか、社員の皆さんのオフィス移転の練習からアイデアや知見をいただいたのは大きかったですね。池田さん、どうしてトライアルオフィスを作ろうと思ったのですか?

池田: いきなり新しい場所にいくとスムーズにワークしなくなる可能性がある、また当社にとってどんな環境が働きやすいのかを、まずトライアルすべきだと当時の担当が判断し実施することになりました。 結果的には実施してよかったと思っています。トライアルオフィスではほぼフリーアドレスなので、最初の1週間くらいはどこに座ればいいかと右往左往している人もいました。そのうち順応できたので、新本社に移ってもすぐにパフォーマンスを発揮できそうです。

小堀: オフィスはその企業の文化なので、環境が変わると文化も変わってくるんですよ。働き方も変わるし、それをいきなり変えるのは難しいですよね。理想なのは少しずつ変えていくことで、こうして事前トライアルしておけば自分たちで文化を耕しておくことができるから、野村不動産さんのトライアルはその稀有な例だなと思いました。こういうのを仕掛けた人はすごいですね。

浜松町トライアルオフィスにて。

――共用部の使い方について、「こうしてほしい」というリクエストはありますか?

池田: 自由に気軽に使っていただければうれしいです。

共用部を設けた意図としては、社員がフロア上を動くきっかけを作りたいなと思ったのがいちばん。今のオフィスは出社して席について仕事をして帰るという動線ができあがっていて、他の場所へ行くきっかけがなかなかありません。新本社なら、カフェがあってレイアウトも少しずつ違っていて、今日はあっちに行ってみようかとフロア中をぐるぐる動いて社員に渦巻いてほしいという思いでレイアウトを考えました。本人が意図しなくても、自然に回遊する設計になっているのがポイントです。

オフィス設計で大切なのは、社員の居場所作り

池田: 私からも小堀さんに伺いたいことが3つあります。

・当初の野村不動産に対する印象は?
・プロジェクトを進めるうえで、その印象はどう変わりましたか?
・今後、社員が新本社を使っていく中で、どう変化をしていくと思いますか?
いかがでしょうか。

小堀: そうですね、まず①については、野村不動産さんは大きな不動産屋さんで「プラウド」を扱っている、というくらいの印象だったのが正直なところです。

で、その後に私がすごいなと思ったのは、野村不動産さんが芝浦に移転すると決めたこと。新宿のビルは何度も行っていますが、あそこにあのビルを立てたのが時代を先取りしていました。なのに、あえて新宿から離れてまったくの新天地に引っ越すと決めた。海、浜離宮、飛行場も見えるこの場所に移転することが、すごい器量だな、パイオニア精神があるなと思いました。

打ち合わせが始まって印象が変わったのは、非常にフラットで言いたいことが言えること。大きな会社だから、怖いボスがいて、ボスの言うことが絶対だ、みたいな官僚的な感じじゃないことにびっくりしました。これが②の答えですね。

池田: 意外かもしれませんが、実際に言いたいことは言い合える環境で仕事ができています。

小堀: フラットな状況でいろいろな考え方を持つことは非常によくて、さらに、それをうまくまとめるリーダーシップ的なものが同時に必要。まとめるのに必要なのは、リーダーシップとイノベーティブな発想なんですよ。AやBやCの意見をまとめるとXだよね、と言える力。それをどの企業も求めています。

今回よかったのは、我々はなんとかXを作ろうとみんなの意見を聞きながら話ができていたこと。ABCのどれかを排除しようとはならなくて、御社の担当者はみんなの意見を聞いて同時に走らせようとしていたのがすごくいいカルチャーだなと感じました。

だから、要項書にあった「シナジー効果が発揮できない」という課題は、環境のせいだなと思ったんです。以前のオフィスは真ん中にコアがあって、左右の部署で何をやっているか見えないし、上下もつながっていない。それは環境のせいです。新本社はフロア全体に仕切りがなくて、上下は階段でつながっているし、全部を渦のようにつないでいけば、これはすぐにシナジー効果が生まれるなと感じています。 今後、社員の皆さんがオフィスを運用していく時に、シナジー効果を意識してつながっていくこと、フロアの中でどういうコンテンツを作っていくかが大事です。何かを置いてみるとか、カフェごとに曜日を決めて小さなイベントをするとか。これから期待したいのは、ハードができたところにどういうソフトウェアをインストールしていくか。それがとても重要で、どんな仕組みを作っていくのか期待しているし、楽しみにしています。③の答えになっているといいのですが。

――お二人がオフィスの設計で最も大切にしていることは何でしょうか?

池田: 可変性があることが大事だと思っています。その瞬間の最適解を作ったとしても、おそらく翌年には最適解ではなくなっていることも多くて、すぐに形を変えられることが必要。そういう意味で、UZU家具は可変性があって理想的ですね。

小堀: 社員が会社に来るには、オフィスそのものが自分の場所であるとみんなが思えるかどうかがポイント。従来のオフィスは、「場所」ではなくて「席」でした。これからは、オフィス全体が自分の場所だと思えるような公共性が高い場所になるといいですよね。1人でもいられる、5人でもいられる、30人でもいられる、広場のような場であるべき。そのうえで、「私たちの場所」なんだと個人が思えるかが、今後は大事になってきます。

池田: 最近、オフィスに求められる領域が広がっていると感じています。単に仕事をする場所から、ウェルビーイングが実現できる場所へと変化してきた結果、ワークとライフの境目が曖昧になってきているかと。そういう意味で、小堀さんの「居場所を作ってあげる」という考え方は、私もとても大事なことだと思います。 このプロジェクトを通じて多くの社員の意見を聞きましたが、働き方が違う全員の要望をかなえるのは難しくて、100%は難しくてもなるべく多くの部署の方が働きやすい方向で考えていきました。小堀さんがおっしゃったイノベーティブなイベントなどもこれからやろうと考えていますし、皆さんが実現したい働き方ができるように、という点においては絶対に譲れない気持ちで進めているので、楽しみにしていただきたいですね。

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